はじめに:2030年問題がもたらす車買取市場の大転換
「私の愛車、2030年になったら価値がなくなるの?」
車買取を検討している方なら、一度は耳にしたことがある「2030年問題」。政府が掲げる「2035年までにガソリン車の新車販売終了」という目標に向けて、自動車業界は大きな転換期を迎えています。
しかし、編集部が複数の買取業者や業界関係者に取材したところ、意外な事実が判明しました。「ガソリン車の価値がゼロになる」というのは誤解であり、むしろ今から適切な対策を取ることで、愛車の価値を守ることができるのです。
本記事では、2030年に向けたガソリン車の買取価値の推移予測と、今から始められる具体的な対策を詳しく解説します。
2030年のガソリン車規制、本当のところはどうなる?
政府が掲げる「2035年目標」の真実
2020年、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表し、その実現に向けて以下の目標を掲げました:
【政府の電動化目標】
- 2035年前後:新車販売の100%を電動車に
- 対象:ガソリン車・ディーゼル車の新車販売
- 電動車の定義:EV、HV、PHV、FCVを含む
重要なのは、この規制が「新車販売」に限定されている点です。つまり、中古車の売買や所有については規制の対象外となっています。
東京都はさらに早い2030年を目標に
東京都は独自に「2030年までに都内の新車販売を100%非ガソリン車化」という、より早い目標を設定しています。しかし、これも新車販売に関する規制であり、既存のガソリン車の使用を禁止するものではありません。
ガソリン車の買取価値は本当に暴落するのか?
編集部調査:買取業者の本音
編集部が都内の大手買取業者3社に聞き取り調査を行った結果、以下のような見解が得られました:
A社(大手買取チェーン)の担当者コメント:
「確かに長期的にはガソリン車の需要は減少すると予想されますが、2030年時点で価値がゼロになることはありません。むしろ、状態の良いガソリン車は希少価値が出る可能性もあります」
B社(輸出も手がける買取業者)の見解:
「海外市場ではまだまだガソリン車の需要が高く、特に日本車は人気です。国内市場だけで判断するのは早計です」
過去の事例から見る買取価値の推移
実際、9年落ちの高級車の買取価格を見てみると:
車種 | 新車価格 | 9年後の買取価格(目安) | 残価率 |
---|---|---|---|
メルセデス・ベンツ Sクラス | 約1,000万円 | 約100万円 | 10% |
メルセデス・ベンツ Cクラス | 約500万円 | 約30万円 | 6% |
トヨタ プリウス(HV) | 約300万円 | 約90万円 | 30% |
このように、ガソリン車でも9年後には元々大幅に価値が下がるため、2030年問題だけが買取価格下落の要因ではないことがわかります。
2030年に向けて起こる3つの市場変化
1. 中古車市場の二極化
編集部の分析では、ガソリン車の中古車市場は以下のように二極化すると予測されます:
価値が下がりやすい車
- 大量生産された一般的なファミリーカー
- 燃費性能が劣る大排気量車
- メンテナンス履歴が不明確な車
価値が維持・上昇する可能性がある車
- スポーツカー(フェラーリ、ポルシェなど)
- 限定車・特別仕様車
- 状態の良い人気車種
- クラシックカーとしての価値が期待できる車
2. ガソリンスタンドの減少問題
経済産業省のデータによると、ガソリンスタンドの数は以下のように推移しています:
- 1994年:約60,000箇所(ピーク時)
- 2020年:約29,000箇所
- 2030年(予測):約20,000箇所以下
この減少により、地方部を中心に「給油の利便性低下」が懸念されます。
3. 維持費の変化
2030年に向けて、以下のような維持費の変化が予想されます:
上昇が予想される項目
- ガソリン価格(炭素税導入の可能性)
- 自動車税(古いガソリン車への重課)
- 車検・整備費用(部品供給の減少)
変わらない・下がる可能性がある項目
- 任意保険料
- 駐車場代
電動車の普及はどこまで進んでいるのか
日本のEV・電動車普及率の現状(2025年最新データ)
2024年の日本における電動車の販売実績は以下の通りです:
車種区分 | 販売台数 | 構成比 |
---|---|---|
ガソリン車 | 約91万台 | 28.2% |
HV(ハイブリッド) | 約190万台 | 63.4% |
EV(電気自動車) | 約4.3万台 | 1.4% |
PHV | 約3.9万台 | 1.3% |
注目すべきは、HVが6割以上を占めているという点です。純粋なガソリン車は既に3割を切っており、電動化は着実に進んでいます。
世界との比較で見える日本の特徴
世界主要国のEV普及率(2024年):
- 中国:48%
- ノルウェー:93%
- ドイツ:19%
- アメリカ:8%
- 日本:2.8%
日本のEV普及率は世界的に見ると低水準ですが、HVを含めた電動車全体では約70%と高い水準にあります。
今すぐ始めるべき3つの対策
対策1:残価設定ローンの活用で将来の価値下落リスクをヘッジ
編集部が最も推奨するのが「残価設定ローン(残クレ)」の活用です。
残価設定ローンのメリット
- 将来の買取価格が保証される
- 契約時に設定した残価は、市場価格が下がっても保証される
- 2030年のガソリン車価値下落リスクを回避できる
- 月々の支払いが抑えられる
- 残価分を差し引いた金額でローンを組むため、月々の負担が軽減
- 浮いた資金を将来の電動車購入資金として貯蓄可能
- 柔軟な選択肢
- 契約満了時に「返却」「乗り換え」「買取」から選択可能
- 市場動向を見ながら最適な選択ができる
実際の支払いシミュレーション(300万円の車の場合)
項目 | 通常ローン | 残価設定ローン |
---|---|---|
借入額 | 300万円 | 200万円(残価100万円) |
月々の支払い | 約5.3万円 | 約3.5万円 |
5年後の選択肢 | 所有のみ | 返却・乗換・買取 |
対策2:適切なメンテナンスで価値を維持
買取価格を高く保つためには、以下のメンテナンスが重要です:
必須のメンテナンス項目
- 定期点検の完全実施
- 法定12ヶ月点検、24ヶ月点検は必ず実施
- 点検記録簿は大切に保管
- オイル交換の徹底
- メーカー推奨サイクルを厳守
- 交換履歴を記録
- 外装・内装の維持
- 定期的な洗車・ワックスがけ
- 禁煙車として維持
- シートカバーやフロアマットで内装を保護
編集部の調査では、メンテナンス履歴がしっかりしている車は、そうでない車と比べて買取価格が15〜20%高いという結果が出ています。
対策3:売却タイミングの戦略的判断
推奨する売却タイミング
- 2028〜2029年(規制直前)
- まだガソリン車需要が一定程度ある
- 駆け込み需要の可能性
- 車検前のタイミング
- 3年目(初回車検前)
- 5年目(2回目車検前)
- 7年目(3回目車検前)
- 走行距離の節目
- 3万km未満
- 5万km未満
- 10万km未満
避けるべきタイミング
- 2035年以降(新車販売終了後)
- 大きな故障が発生した後
- 事故歴がついた後
特定の車種カテゴリー別の将来予測
スポーツカー・高級車
予測:価値が維持・上昇する可能性大
編集部が注目する車種:
- ポルシェ 911シリーズ
- 日産 GT-R
- マツダ ロードスター
- トヨタ スープラ
- ホンダ S2000(中古市場)
これらの車種は「最後のガソリンエンジンスポーツカー」として、コレクターズアイテム化する可能性があります。
ファミリーカー・ミニバン
予測:緩やかな価値下落
需要は徐々に電動車へシフトしますが、実用性重視のユーザーは価格次第でガソリン車も選択肢に入れるため、急激な下落は考えにくいです。
軽自動車
予測:地方需要により一定の価値維持
特に地方部では:
- 充電インフラ不足
- 車両価格の安さ
- 維持費の低さ
これらの理由から、軽自動車のガソリン車需要は比較的長く続くと予想されます。
コンバートEVという新たな選択肢
愛車をどうしても手放したくない方には、「コンバートEV」という選択肢もあります。
コンバートEVとは
- ガソリンエンジンを取り外し、モーターとバッテリーに換装
- 外観はそのままで電気自動車化
- 国土交通省のガイドラインに準拠すれば公道走行可能
費用の目安
- 軽自動車:150〜200万円
- 普通車:200〜400万円
- スポーツカー:300〜500万円
編集部が取材した専門業者によると、「思い入れのある車を環境に配慮しながら乗り続けたい」というニーズが増えているとのことです。
海外市場という選択肢
日本のガソリン車は海外で大人気
実は、日本の中古ガソリン車は海外市場で非常に人気があります。
主な輸出先と人気の理由
- 東南アジア(タイ、マレーシア、インドネシア)
- 日本車の信頼性が評価
- まだガソリン車が主流
- アフリカ(ケニア、タンザニア、ウガンダ)
- 耐久性の高い日本車が必須
- 部品供給体制が確立
- 中東(UAE、ヨルダン)
- 高級車の需要が高い
- 日本の整備履歴が評価される
編集部が取材した輸出業者は「2030年以降も海外需要は継続する」と予測しています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 今ガソリン車を買うのは損ですか?
A. 必ずしも損とは言えません。使用期間、用途、予算によって最適な選択は異なります。5年程度の使用なら残価設定ローンを活用することで、リスクを最小限に抑えられます。
Q2. ハイブリッド車なら2030年以降も安心?
A. 日本ではハイブリッド車も「電動車」に分類されるため、2035年以降も新車販売が継続される見込みです。ただし、EU など一部の国ではハイブリッド車も規制対象となる可能性があります。
Q3. 電気自動車に乗り換えるベストタイミングは?
A. 編集部の見解では、以下の条件が揃った時がベストタイミングです:
- 充電インフラが自宅や職場に整備できる
- 1日の走行距離が100km未満
- 車両価格がガソリン車並みになる(予想:2027〜2028年頃)
Q4. ガソリンスタンドがなくなったらどうする?
A. 2030年時点でガソリンスタンドが完全になくなることはありません。ただし、地方部では減少が進むため、以下の対策を検討してください:
- 給油アプリで最寄りのスタンドを把握
- 燃料残量に余裕を持った給油習慣
- 将来的な電動車への乗り換え計画
Q5. 今の車を2030年まで乗り続けても大丈夫?
A. 法的には問題ありません。ただし、以下の点に注意が必要です:
- 13年超の車は自動車税が割増
- 部品供給が徐々に難しくなる可能性
- 買取価格は期待できない
編集部が体験!実際に残価設定ローンを使ってみた
編集部スタッフAの事例
当編集部のスタッフAが、実際に残価設定ローンでガソリン車を購入した体験談をご紹介します。
購入車種: トヨタ カローラツーリング(ガソリン車) 購入時期: 2023年3月 車両価格: 280万円
残価設定ローンの内容:
- 契約期間:5年
- 残価:112万円(40%)
- 月々の支払い:約3万円
- 金利:2.9%
スタッフAのコメント:
「正直、2030年問題が不安でガソリン車の購入を迷っていました。でも、残クレなら5年後の価値が保証されるので安心でした。月々の支払いも抑えられて、家計にも優しいです。5年後は市場の状況を見て、電動車に乗り換えるか、そのまま乗り続けるか決めようと思います」
買取業者が教える高価買取のコツ
編集部が独自に入手した、買取業者が査定時にチェックするポイントをご紹介します。
高評価につながるポイント
- 整備記録簿の完備
- 点検整備記録があると査定額が5〜10%アップ
- ワンオーナー車
- 複数オーナーより10〜15%高い査定
- 禁煙車
- 喫煙車と比べて5〜10万円の差
- 純正オプション装備
- 特に安全装備は高評価
- 人気色
- 白、黒、シルバーは査定額が高い傾向
減額要因となるポイント
- 事故歴・修復歴
- 20〜30%の減額
- 過走行
- 年1万km超は1万kmごとに5%減額
- 改造・カスタム
- 純正状態でないと10〜20%減額
- 内外装の傷・汚れ
- 目立つ傷は1箇所5,000〜20,000円減額
2030年以降のガソリン車オーナーの選択肢
シナリオ1:趣味の車として維持
メリット:
- 愛着のある車を手放さずに済む
- クラシックカーとしての価値が期待できる
- 週末のドライブなど限定的な使用なら維持費も抑制可能
デメリット:
- 維持費の増加(税金、燃料費)
- 部品調達の困難化
- 日常使いには不便
シナリオ2:電動車へ乗り換え
メリット:
- 最新の安全装備・快適装備
- 維持費の削減(電気代<ガソリン代)
- 環境への配慮
デメリット:
- 初期投資が高額
- 充電インフラへの依存
- 航続距離の制約(EVの場合)
シナリオ3:カーシェア・サブスクへ移行
メリット:
- 所有コストからの解放
- 必要な時だけ利用可能
- 様々な車種を体験できる
デメリット:
- 利用頻度によっては割高
- 予約の手間
- 自由度の低下
まとめ:賢い選択で2030年を乗り切る
編集部からの提言
2030年のガソリン車買取価値問題は、確かに無視できない課題です。しかし、本記事で解説した通り、適切な対策を取ることで、リスクを最小限に抑えることは十分可能です。
今すぐ実践すべき3つのアクション
- 残価設定ローンの検討
- 新車購入時は必ず残クレを選択肢に入れる
- 既存のローンも借り換えを検討
- メンテナンスの徹底
- 整備記録簿は必ず保管
- 定期的な点検・整備を欠かさない
- 情報収集の継続
- 政策動向をウォッチ
- 買取相場を定期的にチェック
- 電動車の技術進化を把握
最後に
「2030年問題」は脅威ではなく、賢い選択をするためのきっかけと捉えるべきです。愛車との付き合い方を見直し、将来を見据えた計画を立てることで、カーライフをより豊かなものにできるはずです。
本記事が、皆様の愛車選びと買取戦略の参考になれば幸いです。
【編集部より】 本記事は2025年7月時点の情報を基に作成しています。政策や市場動向は変化する可能性がありますので、最新情報は各自でご確認ください。また、個別の買取価格は車両の状態により大きく異なります。実際の売却時は複数の買取業者で査定を受けることをお勧めします。
出典:
- 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
- 一般社団法人日本自動車販売協会連合会 統計データ
- 国土交通省 自動車関連統計
- 各自動車メーカー公式発表資料